「発達障害を含む障害のある幼児児童生徒に対する教育支援体制整備ガイドライン」の解説(その16:最終回) −平成16年版との比較から−(全体のまとめ)

  • 2017.05.24 Wednesday
  • 00:03

JUGEMテーマ:学問・学校

 

 平成16年の「小・中学校におけるLD(学習障害),ADHD(注意欠陥/多動性障害),高機能自閉症の児童生徒への教育支援体制の整備のためのガイドライン(試案)」(平成16年版と略記)と平成29年に出された「発達障害を含む障害のある幼児児童生徒に対する教育支援体制整備ガイドライン」(以下、新ガイドラインと略記)は、どちらも特別支援教育の体制整備のためのガイドラインですが、大きな違いがあります。その主なものをまとめてみます。

 

1.平成16年版は、題目にもあがっているように「LD,ADHD,高機能自閉症」だけで、障害のある児童生徒の一部に特化したガイドラインでした。それが、今回「障害のある幼児児童生徒」すなわち特別支援教育の対象となる子ども全てを対象としている。これは非常に大きな違いです。

 

2.平成16年版の内容は、平成11年7月2日に学習障害及びこれに類似する学習上の困難を有する児童生徒の指導方法に関する調査研究協力者会議から報告された「学習障害児に対する指導について(報告)」と、「特別支援教育体制推進事業」(脚注)で整備してきた仕組みをまとめた内容でした。モデル事業として推進され、例えば学生支援員という教員養成学部の学生を取り込む試みなど、正式の制度設計というよりも、モデル事業の中での工夫が基礎になり、オプション的に加えられていったという経過をたどりました。制度改正がなされた平成19年、「特別支援教育の推進について(初中局長通知)」が出されて、それらの試みの多くが正式の役割・制度となっていきました。ただし、学生支援員など消えていったものもあります。
 平成16年版は、正式の制度発足の前に書かれているため、モデル事業の集大成という色彩が強く、制度としては背景を欠いていたため、特別支援教育コーディネータや専門家チームに多くの役割を付し、体制整備としては不十分なものでした。

 

3.新ガイドラインは、平成16年版を踏襲しているように見えますが、10年余りの実践の裏打ちがあるため、使える仕組みと使えない仕組みの違いが分かってきて、より着実な制度設計になっています。ただし、平成16年版を踏襲しているスタイルであるため、その弊害を払拭するにまでは至っていません。例えば、専門家チームで障害の判断を行うことは、現在ではほとんど無く、医師の診断が主に行われています。そうなると、本当は専門家チームの存在意義はかなり無くなっていると言えるでしょう。

 

4.障害者の権利条約批准とそれに伴う法・制度改革にともなう変化に対応するために、大幅に内容が変わっています。新ガイドラインでは、特別支援教育コーディネータの職務の一部に合理的配慮に関する合意形成が加えられた事は特筆すべきことでしょう。また、全体に、幼稚園、小学校、中学校、高等学校の通常の学級を中心に述べられており、インクルーシブ教育システムの構築を目指したガイドラインになっています。

 

5.これらの変化を受けて、平成16年版の個別指導を中心とした発想から、新ガイドラインでは学校内の組織的取り組み、とりわけ学校経営や学級経営としての取り組みという発想へと転換しています。

 

6.学校全体の取り組みとして展開するために、校内の役割を整理していることが注目されます。また、それらの諸役割を統括する視点が重視され、それが校長・園長の役割について多く書かれるという姿に現れています。このことは、校長の責任が増したと言うより、学校全体でチームとして取り組むことが重視され、勢い、それらをマネージメントする校長の役割として書かれることが増えたと考えられます。その部分を校長だけでなく、教職員全員がよく読んで、チームとして機能するように運営することが求められていると思います。

 

7.「個別の教育支援計画」と「個別の指導計画」がチームでの取り組みと、本人・保護者の参画に重要な役割を果たすことになりました。このことは、「専門家チーム報告書」(絵に描いた餅だったか?)から、個別の教育支援計画の義務化へと、現実的な改善が図られています。(2016年に話題になった「個別カルテ」は、これらの義務化で実現したと推察されます)。

 

 以上みてきましたように、平成16年版に比べると非常に改善されたガイドラインと言う事ができるでしょう。更なる改善のために、学校全体での組織的取り組みの成果を積み重ねる必要があると思います。

 

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(脚注)平成12年度から始まった「学習障害の判断・実態把握体制等に関するモデル事業及び巡回相談事業」と、平成15年度からそれを引き継いだ、「特別支援教育推進体制モデル事業」として小・中学校におけるLD・ADHD・高機能自閉症等の児童生徒への総合的な教育支援体制の整備を図るため,校内委員会や専門家チームの設置, 特別支援教育コーディネーターの養成, 巡回相談等を実施。平成16年度からは,小・中学校におけるLD・ADHD・高機能自閉症等を含めた障害のある児童生徒への総合的な支援体制の一層の整備を図るため、上記の事業内容に加えて、都道府県や地域における行政部局横断型の組織として特別支援連携協議会の設置、個別の教育支援計画の策定、盲・聾・養護学校のセンター的機能の在り方に関する研究を実施してきた。

 

 

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